相続は、人が死んだ瞬間から始まります。相続がはじまる原因は人の死亡以外にはありえません。現在では、旧民法にあったような隠居の制度はなく、生前相続というようなことは認められません。
ですから、行方不明の状態が長く続いていても、それだけでは相続は開始しません。行方不明の者については家庭裁判所に申し立て、失踪宣告を受けてはじめて死亡したものとみなされるので、そこで相続が開始することになります。
こうして、人が死亡するとその人の財産(もちろん借金も含まれます)の一切が、法律で定められている相続人に相続されることになります。
人が死亡すると、同居の親族などは7日以内に、死亡地の市区町村長に死亡届を出す必要があります(戸籍法86条)。死亡届には、医師の作成した死亡診断書を添付します。
死亡届の書類は、市区町村役場に備え付けられていますので、必要事項を書き込んで提出すればOKです。なお、死亡診断書は、後日生命保険の受取りなどの関係で必要になってきますので、4、5通もらっておくと便利です。
「お通夜」をして、納棺をすませ、葬儀、告別式ということになります。葬儀、告別式が終われば、遺族、近親者などが故人に最後の別れをして棺にふたをして、火葬場に向かいます。
法律によって、火葬は死亡後24時間たたないうちに行ってはならないとされています( 墓地、埋葬等に関する法律3条)。火葬するには、市区町村役場の火葬許可が必要になりますが、死亡届を提出すれば同時に許可書もいただくことができます。
香典などで葬儀費用が全部まかなわれていれば問題はありません。そうでない場合は、民法の規定の解釈から、相続財産のなかから支払うべきものとされています。したがって、被相続人が現金や預金などを残していればそのなかから支出することになります。不動産や宝石など、すぐに換金できないものはあるが、現金、預金が葬儀費用に足りないという場合には、誰かが立て替えて、後に精算することになります。
相続権があるからといって必ず相続しなければならないということではありません。相続は、死亡した人の財産を引き継ぐだけではなく、何もしないでいると被相続人の借金までも引き継ぐことになるので、相続するかしないかは、慎重に考え、よく調べてから決めるべきです。民法では、相続放棄・限定承認という制度を準備しており、相続人は必ずしも相続しなくてもよいとされています。
相続を放棄するとか、あるいは限定承認するという場合には、相続の開始があった、つまり自分がある人の相続人になったということを知った時から、3ケ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
相続手続きには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本が必要になります。 また、被相続人の住民票の除票および相続人全員の印鑑証明書が必要になります。これらは、被相続人の相続人が誰であるかを確認し、遺産分割協議の際に、その内容を書面(遺産分割協議書)にし、各相続人が署名し、実印を押捺するうえで必要になります。
申告書の提出、納税は、被相続人死亡の翌日から10ケ月以内に行います。
相続の手続きでも、遺言がある場合には比較的簡単です。 遺言は公正証書遺言である場合を除き、家庭裁判所の「検認」を受けなければなりません。 こうして開封された後は、遺言の内容にしたがって、不動産の相続登記、銀行預金の名義移転手続きなど財産の分配をすることになります。
遺言が、ある相続人の「遺留分」を侵害していなければ、相続手続きは比較的スムーズにいきます。
まず、遺産の範囲を確認することから始めます。そのための方法として、所得税申告書の控、固定資産税の納税通知書、権利書、登記識別情報、各種の通帳・証書などを集めます。
相続人同士の相談の結果、話がまとまりましたら、全員の合意を得たという遺産分割協議書を作成して、全員で署名し実印を押します。そのうえで、遺言がある場合と同じように、遺産の名義変更を行います。